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だが、今の状況は野生竜の数が通常の狩りの十倍近い。
普通の狩りならば、絶対に誰も手を出さないほどの大きな群れなのである。
三人は、実はかなり危険な賭けに挑んでいるのだ。
二頭、また二頭と、ワルトとテレーは次々に竜を撃ち落としていく。
銃の腕が確かな二人は、あっという間に竜の数を半分近くまで減らした。
この早さを保って順調にいけば、竜の掃討作戦は問題なく終わるはずだった。
しかし。
野生竜が次第に、カラスに追いついてきた。
野生竜の加速は、ワルトとテレーの予想よりも少し早かったようだ。
スキッダルはいち早く危険を察知して、軍竜を急旋回させて野生竜を左右に揺さぶり、振り払いにかかった。
その様子を後方から確認したワルトは、すぐに次の作戦をテレーに伝える。
「軍用カラスはもう限界みたいだ。テレー、次は俺が囮(おとり)になる。攻撃は任せたぞ」
テレーが右手を上げて了解の合図を送る。
ワルトは旋回して横顔を見せているスキッダルに向かい、左の親指を上向きに立てて二回大きく上下させた。
「上昇離脱」のサインを横目で素早く読み取ったスキッダルは、カラスに命令をかけて四方に散開させた。
自分はカラスの群れが消える寸前で急上昇することで、野生竜の目をくらませた。
野生竜の群れは前方の目標を失ったものの、勢いに任せてそのまま突き進んでいく。
スキッダルの離脱を見届けてから、ワルトは手綱を握りしめて上空へ舞い上がった。
そして不敵な笑みを口元に浮かべると、自分の愛竜に向かって叫んだ。
「さあ、イザーク。血統の違いというものを、駄竜どもに見せつけてやれ!」
野生竜のくぐもった唸りとは違う、イザークの透き通ったいななきが風のように沼地を駆け抜ける。
それからワルトを乗せたイザークは翼をすぼめると一気に急降下し、群れの後方へと突っ込んでいった。
イザークは次々と野生竜を追い越し、あっと言う間に群れの先頭に躍り出る。
新しい標的を見つけた野生竜は、血走った目を見開いてイザークを追った。
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