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野生竜と、最高速度の飛行をすべく改良され徹底的な訓練を施された軍竜。
その差は歴然だった。
実を言うと、ワルトはイザークのスピードを控えめにして飛んでいた。
最大速度を出してしまえばあっと言う間に野生竜を引き離してしまい、囮の役割を成さなくなってしまうからだ。
野生竜はスピードを増すほど強まる風圧に次第に体力を奪われ、呼吸は荒くなり、時折よろめく個体も出始めた。
テレーは後方からそれを一頭ずつ、着実に撃ち落としていく。
テレーが最後の一頭を撃ち落としたところで、ワルトが竜を旋回させてテレーの近くへ飛ばす。
普段よりも長丁場の狙撃を終えたテレーはマスクを口元まで引き下げ、吹き出す汗を拭っていた。
ワルトは友人に労いの言葉をかけようと口を開いた。
が、大仕事を終えて緩みかけていた口元は急に口角をおし下げて、鋭い声を発する。
「テレー! 上昇しろ!!」
ワルトの声に、テレーははっとして手綱を引く。
「アイロス、Climb(上昇しろ)!」
テレーの命令と同時に、竜が翼をはためかせて一気に上昇した。
その直後、それまでテレーの愛竜アイロスの首もとがあった辺りに、野生竜の鋭い牙が空を切った。
牙と牙が激しくぶつかり合って、骨の鈍い音が鳴る。
ワルトは叫ぶと同時に瞬時に体勢を整えると、テレーの竜に向かい上昇する野生竜に向かって長銃を構えた。
正確な射撃が、野生竜の肩口を打ち抜く。
しゃがれた竜の叫びとともに、黒い斑(まだら)の羽根がぱっと舞い上がった。
野生竜の体は上昇の勢いに乗って一瞬ふわりと浮いたが、やがて引力に引かれるまま垂直に落下した。
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