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会議を終え、参加者全員が部屋を去るのを待ってから、ワルトとテレーは参謀室を後にした。
二人は参謀室のある本部から、兵舎の入っている西棟へ向かって歩いていく。
廊下は古びた床板が敷き詰められていて、歩を進めるたびに板がこすれ合ってキシキシと鳴った。
荒く拭き上げられた跡のついた窓ガラスからは、冬の穏やかな日差しが差し込んでいる。
太陽が常に大地と垂直な位置を通る場所は、ロータと呼ばれている。
ロータはラティスの北にあるダパロ王国の中にあり、「ダパロ」はその土地の古い言葉で「ロータの上」を意味するのだという。
大陸の中でもロータからそう遠くない位置にあるラティス帝国では、高地にある帝都を除けば冬でもかなり温かい。
冬場は滅多に雨が降ることはなく、この日の午後もきれいに晴れ渡っていた。
「狩りの後からずっと落ち込んでいたみたいだが、気持ちは持ち直したのか?」
テレーの眉間を指差して、ワルトが笑う。
テレーは竜狩りの後からずっと眉間にシワを寄せたままで、口数も少なかった。
テレーと子どもの頃から付き合いのあるワルトはそんなテレーの性格をよくしたりすることはしない。いつも敢えて、そっとしておく。
そうしてしばらく過ごしてから、テレーの気持ちが上向いてくる頃合いを見計らって声をかけるのである。
「うん、もう大丈夫。いつも心配をかけてごめん」
テレーは少し照れくさそうに自分の眉間に手を触れた。
それからは普段のように、二人はとりとめのない話をして笑い合った。
「そう言えば」
石造りの階段に革靴の固い音を響かせながら、思い出したようにテレーが顔を上げた。
「沼地で撃ち落とした野生竜は、どうなったかな。一応全部急所は外しているから大丈夫だとは思うけど、もし傷が深くて動けなくなったのがたくさんいたら、処分だけでも大変な作業になるよね」
「それなら大丈夫じゃないか? エタハ村の主な産業は竜よけの香ともう一つ、竜革生産だ。竜を処分する技術なら一流のはずだから」
なに食わぬ顔でそう返すワルトに、テレーは「そうだっけ?」と右腕に抱えていた資料を探った。
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