辺境遠征(後編)

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 二人は一階まで下りると、本部棟の入り口から外へ出た。  テサは大きな崖の上にそびえ立つ基地で、南に向かってコの字が開いたような型に建物が並んでいる。  主に兵士の宿舎や食堂が入った建物が西側に二棟、事務局や会議室などの入った建物が東に一棟、そして東と西を橋渡しする形で司令官室や参謀室などを備えた本部の建物が一棟ある。  また、東の事務棟の奥には兵器庫があり、地下には弾薬庫があった。  その更に先は崖の淵になっており、国内でも有数の規模を誇る竜舎と飛竜台を備えている。  コの字の中央、本部の正面には星輝(せいき)石でできた見事な噴水があった。  噴水の彫刻は、片方の前足を上げ天へ向かって猛る口を開いた竜、その上で翼を広げて竜を見下ろす鳥が象られており、竜と鳥の両翼は左右でそれぞれ重なり合っている。  竜は強大な軍事力、鳥は高度な知性を象徴しており、理想的な国家を意味している。  これがすなわち、ラティス帝国の紋章である。 「あれ、ちょっと待てよ」  噴水の前にさしかかったところでワルトが立ち止まったので、テレーも足を止めた。  二人の目の前では噴水の彫刻の竜の鼻から水が空へ向かって豊かに噴き出し、噴水の向こう側にある基地の正門をきらきらと歪めている。 「竜狩りを生業にしているってことは、エタハの村人の多くは竜に乗れるってことだよな?」  自分で自分の言葉を確認するように、ワルトがぽつりと漏らした。 「言われてみれば、そうだね。竜狩りは竜を使わないとまずできないし。でも、それがどうかしたの?」  目を細めて意味ありげに思案するワルトの隣で、テレーは不思議そうな表情を浮かべた。
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