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「ワルトさーん!」
テレーが本部の大きな鉄扉に手をかけた時、遠くから声が聞こえた。
基地の正門から噴水まで伸びる広い道を、一台の馬車が進んでくる。その窓から、一人の青年がこちらに向けて大きく手を振っているのが見えた。
本部の前に馬車が止まると、青年は馬車から降りてワルトの前に立った。
「ソーマじゃないか」
ワルトが声をかけると、ソーマは金髪の頭を下げてお辞儀をした。
「ワルトさん、ご無事で何よりです。あの仔竜の事件の後、野生竜の大群を掃討したとロマ少尉から聞きました。やっぱり、一流の竜騎士との噂は本物ですね。先日はご一緒できてとても光栄でした!」
ソーマは目をきらきらと輝かせて、ワルトに羨望の眼差しを向けている。
ワルトはその熱い視線にすっかり戸惑ってしまった。
「こら、ソーマ上等兵。そのような態度はワルト少佐殿に失礼であろう。見よ、少佐も困っておられるではないか」
ソーマの後から歩いて到着したのは、グリンデル中尉である。
グリンデルは指で自慢の髭をひねりながら、ソーマをたしなめた。
ただでさえ恰幅(かっぷく)の良い体は胸をやたらと反らしているせいでさらに大きく見え、さながら獲物を踏みつけた獣とでもいった風だ。
「すみません。エタハでもワルト少佐に注意されたばかりなのに……。僕ってどうしてこう、うっかり者なんだろう!」
ソーマはぱっと顔を赤くして、頬を両手で覆った。
「いや、もうワルト『さん』で全然構わないから」
ワルトは更に困った表情になり、参ったな、と頭をかいた。
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