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グリンデルはワルトに軽く会釈をすると、扉の前でこちらの様子を見ていたテレーに向かっていそいそと駆け寄った。
「これはこれは、テレー少佐殿ではありませんか! 私(わたくし)、東方辺境警備隊の隊長でグリンデルと申します。先日の野生竜掃討でのご活躍、隊の者から聞いておりますぞ。何でも、百頭もの野生竜をたったお一人で撃ち落とされたとか。さすがは、レトセイド家のご子息。血は争えませぬな!」
先ほどまでの堂々たる姿とは打って変わり、腰を低くしてべらべらとお世辞を並べたてていくグリンデル。その前で、テレーの表情はだんだんと曇っていく。
「よしてください。この前の竜退治は、僕だけの力ではありません。百頭というのも、ちょっと言い過ぎです。それに今回のことは、父上とは関係のないことです」
テレーは冷静に話そうとしているが、口調の端々に不機嫌さが現れていた。
「あーあ、やっちまったな」
ワルトはグリンデルが機嫌の悪くなったテレーに慌てふためく様子を見ながら、にやにやして言った。
「どういうことですか?」
ワルトのそばで、ハラハラと二人の様子を伺っていたソーマが尋ねる。
「テレーは父親の名前を出されるのが、一番嫌いなのさ」
「えっ……もしかしてテレー少佐って、まさかあのレトセイド家のご子息なんですか? ラティスの翼と謳(うた)われる、メナス・レトセイド公爵の?」
驚きで目を丸くするソーマに、ワルトはうなづいてみせた。
メナス・レトセイド。
ラティス帝国でその名を知らぬ者はいない。
先の北東のダパロ王国との大戦でいくつもの武功を上げ、勝利に最も貢献した竜騎士であり、その愛竜ソレンと共に『ラティスの翼』と称される英雄である。
ラティス帝国の子どもたちは皆、メナスのような竜騎士になりたいと夢見たものである。
テレーは、そのレトセイド公爵家の四男である。
父と同じ竜騎士の道を選んだテレーだったが、テレー自身はレトセイド家であるという理由で特別扱いされることをひどく嫌っていた。
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