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「ところでソーマ。他の遠征隊員が見当たらないが、テサ基地に来たのはソーマとグリンデル中尉だけなのか?」
テレーとグリンデルのやりとりをよそに、ワルトはソーマに話しかけた。
「はい。今日はエタハ村から護送のためにこちらにやって来ました」
ソーマはワルトの方に向き直って答えた。
「護送? 一体誰の?」
ワルトの眉が密かに動いた。それがですね、と、ソーマはひそひそ声になって言う。
「それがあの、エリーなんですよ。クルト二等兵の、妹の。何でも竜の襲撃の後に目を覚ますと、『兄の言う通り、竜が来た。神様は本当にいるんだ。使命を果たせなかった私は終わりだ』などと意味不明なことを叫んで民家でひどく取り乱したそうで……」
ソーマの話をまとめると、こうである。
ワルトはテサに戻ってからすぐにロマ少尉へ竜の襲撃が故意に起こされた可能性があると伝令カラスを送っていた。
そこへ、竜の襲来を事前に知っていたことをほのめかすエリーの発言が伝えられた。すぐに村にある駐屯地で事情聴取が行なわれたが、竜のことを問いただしてみても神様がどうだと要領を得ないことを答えるばかりで埒(らち)が明かない。
村にいる人員では手に負えないと判断したロマ少尉が、占司(せんじ)が常駐するテサへの護送を決めたということだ。
ソーマの説明を、ワルトはあごを指で触りながら静かに聞いていた。
「悪霊払いを扱う占司にまで頼るところをみると、よほど手を焼いたんだろう。だとすると、エリーに直接竜について聞くのは無駄かもしれないな……」
ワルトは自分にしか聞こえない声で、そっとつぶやいた。
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