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日がだいぶ傾いて、少し肌寒くなってきた。
ワルトは一人、基地の西へ向かって歩いていた。
二つ並ぶ兵舎を通り過ぎて更に西へ歩を進めると、軍用の簡素な拘置所が見えてくる。
通常、犯罪者などは警隊の本部に護送されるが、今回の場合は軍が警隊から引き受けた竜襲撃事件の重要参考人ということで、エリーはテサに送られてきたらしい。
兵舎の陰から拘置所を覗いていたワルトは、ふと背後に人の気配を感じた。
慎重に後ろを振り返ってみると、そこには黒々とした制服を着た男が立っていた。そしてその肩には、大きなカラスがとまっている。
「カラス舎は、そっちじゃないぞ」
わざと周囲に聞こえるように言って、スキッダルはワルトに目配せをした。
スキッダルの視線の先には、本部から兵舎へ向かって歩いてくる兵士の姿が確認できた。
「あ……ああ、悪いな。どうもまだ慣れなくて、迷っちまったみたいだ」
ワルトは上手く話を合わせると、スキッダルと共にその場から離れた。
基地と外を隔てる厳(いか)めしい鉄格子の内側には、背の高いカナーの木々が立ち並んでいる。
長く伸びた木の影に隠れて続く道。拘置所へ続くその道の脇に、軍用カラス舎はひっそりとたたずんでいた。
カラス舎は道に向かって広い鳥小屋が四つ並んでおり、それぞれの小屋に五十羽ほどのカラスが入れられている。
カラス舎は風通しが良いように設計されてはいるものの、近づくとむせるような羽毛の臭いが漂っていた。
舎の端には他のカラスたちの小屋とは別に、背の高いスキッダルの背とちょうど同じくらいの高さに作られた大きな鳥小屋があった。
スキッダルはそのひときわ大きな小屋の扉を開けると、肩に乗せたアレクサスを中に設置してある止まり木にそっと移した。
「こんな古びたカラス小屋に客人とは、珍しいの」
古びた木が軋(きし)む音に続き、しゃがれた声がした。
ワルトが声のした方向に目を向けると、アレクサスを入れた鳥小屋のすぐ隣に建てられた小さな小屋の中から、ひどく背の曲がった老人がコツコツと杖をついて現れた。
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