辺境遠征(後編)

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「師匠、夕の世話は先ほど終わらせました。アレクサスも、もう休ませます」  スキッダルは鳥小屋の扉に鍵をかけると、老人に向き直った。 「お邪魔しています。私は、スキッダルの友人で、ワルトという者です」  お辞儀をするワルトを、師匠と呼ばれた老人は伸びきったごわごわの髭を撫でながらじろじろと観察した。 「その首元の階級章は、竜騎士かの。お前さんが友人を連れてくるとは、珍しいこともあるもんじゃ」  老人は喉をくつくつと鳴らして笑う。 「いえ、ただの腐れ縁です」  スキッダルは表情を変えずに答えた。  地味なカラス使いという職種とその無口な性格も相まって、スキッダルは基地の中では近付き難い人間として認識されている。  ワルトは、普段は人と滅多にしゃべらないスキッダルが何であれ自分を評してくれただけで、十分に満足だった。 「ふむ。変わった奴じゃの」  スキッダルの無愛想な言葉に嬉しそうな顔をしたワルトを見て、老人はまたくつくつと笑った。  空が夕日の赤で濃く染まり始めた頃、ワルトは拘置所から駆け出す白服の少女と、慌ててそれを追う兵士の姿を目撃した。  少女はカラス舎のある北側の道ではなく、兵舎の南側へ向かって草むらを走っていく。  少女は身軽に兵舎の南側を駆け抜けた。しかし兵士はその後を追えずに立ち往生している姿が、ワルトのいる場所から遠目に確認できた。  兵舎の南側の壁と基地の外側を囲む鉄格子の間は、大人が通り抜けるにはかなり狭い。  少女を追っていた兵士は体格の良い男だったので、そのすき間を抜けられなかったのだろう。ワルトはすぐにそう察した。  ワルトは拘置所から慌ただしくカラス舎の前の道を走ってきた兵士を捕まえて、何が起きたのか尋ねてみた。 「エタハ村からの参考人が眠ったフリをしていて、部屋から食事を下げようとした監視の隙をついて逃げ出しました」  若い兵士が息を切らせて答える。  兵士の話によると、これから急いで基地の各出入り口の警備を固めるという。
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