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足環には、竜と鳥を象(かたど)った紋章を印した装飾が掘り込まれており、脚に沿うようにして細長い筒が一緒に装着されていた。
ワルトは鳥の黒い体を手で優しく持ち上げると、足環についている筒のフタを指でつまんだ。
慣れた手つきで器用に小さなフタを開けると、中に丸められている紙を取り出す。
小指ほどの幅の紙を巻き物のように広げると、ちょうど手のひらの上に乗るほどの大きさになった。
ワルトは書かれた内容を読み、しばらく考えるように紙面を見つめた。
それから黒い鳥を肩に乗せかえ、ズボンの右のポケットから小さい紙束を取り出した。
走り書きで紙きれに何かを書きつけては、書く手を止めてまた考えるように丘の向こうの空を見つめる。
そうした作業を何度か繰り返してから、最後に一枚をちぎってくるくると丸め、足環の筒にねじこんだ。
ワルトは顔を上げ、確かめるようにもう一度空の様子を観察した。
そしてようやく心が決まったのか、肩に留まらせていた黒い鳥を右手の指先に乗せた。
「Ad テレー (テレーへ)」
ワルトは命令をかけ、鳥を乗せた右手をふわりと振った。
黒い鳥はパタパタと翼をはためかせると、村の上空を低く滑るように飛んでいく。
やがてすうっと高く舞い上がると、ワルトたちの小隊がやってきた方角へと姿を消した。
「お疲れのとこすまないが、頼んだぞ。もうすぐ追い風が吹いてくるから、来た時よりはずっと楽に飛べるはずだぜ」
自分の伝言をたずさえて飛んでいく鳥の姿を、ワルトは優しく見送った。
「ワルト少佐殿、グリンデル中尉がお呼びです」
丘の上にたたずむワルトに、若い兵士が声をかけた。
背筋をぴんと伸ばして敬礼する姿は、朝の張りつめた空気と相まって清々しい。
「そうか、ありがとう。君は確か、馬車でも一緒だったよね?」
「はいっ! ソーマ上等兵です!」
敬礼した手を微動だにしないまま、ソーマは答えた。
「じゃあ改めて、ソーマ上等兵。連絡ありがとう、今行くよ」
ワルトはソーマににっこりと笑いかけると、丘の上から降りていった。
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