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グリンデルの部屋へ向かう途中、食堂の脇を通り過ぎた。
食堂では村に駐在している白髪まじりのロマ少尉が、新人研修という名の自慢話を新兵達に披露している。
村に着いた後でささやかな歓迎の会食が開かれたのだが、そのときに若いワルトもロマ少尉に捕まって長々と話を聞かされたため、ロマ少尉の話には早くも辟易していた。
「若者がここへ来るといつもあの調子みたいですよ。まあ、中には為になるお話もあるとは思います。ごくたまに、でしょうけどね」
隣を歩くソーマからそう小声で告げられると、ワルトは小さく肩をすくめた。
「まあ、年長者の話には、確かに時に真理をついていることもある。だけど昔話なんてのは、錆びた大人のすることさ。俺たちみたいな若者は、常に未来を追いかけるくらいで丁度いいと思ってる」
ソーマはワルトの言葉に少々驚いた様子だったが、やがてクスリと笑いをこぼした。
「なんだかワルト少佐って、私が想像していた方とは全然違いますね。食事も宿舎も、他の兵士と同じになさいましたし。中央特務部隊の竜騎士という超エリートと聞いていましたから、失礼ながら、もっと尊大な方かと思ってました」
ワルトは頭をかきながらため息をつく。
「うん、思っていたのと違うとはよく言われるね。俺みたいなテキトーな人間には、エリートというお堅い言葉はよほど似合わんのさ」
そう言ってワルトがにっと笑うと、ソーマもすっかり表情を崩し、声をあげて笑った。
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