1章[時空郷]

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 何故、『時空郷』の世界が絶対的に近い不可侵な世界であり、高度な文明を持った者達でも辿り着くことが困難と呼ばれているのか?  それには、ある特別な理由があった……。  まず一つに、『時空郷』は『六星幻時界』の基盤を生み出した『始まりの神』が住まう世界であり、神の住まう土地に足を踏み入れる時点で、神が支配する領域に立ち入るということを表す。  故に絶対的不可侵は当然と言えば当然であり、普通の人間が立ち入ること自体がおこがましいとも言えよう。  『神が住まう土地』という意味を持つ『神地』であり、更にそれがこの世界の『始まりの神』が住まう土地であるが故、『時空郷』は別名『神界』とも呼ばれている。  次に、『時空郷』はこの世に存在する目に見えない巨大な力……『存在の力』を生み出す土地である。  『存在の力』とは、全ての『存在』がそこに在り続ける為の力であり、『空』も『海』も『大地』も『境界』も、『存在の力』が在るがゆえに、存在することができる。  つまり、『存在の力』とは、この世に存在する全ての生命の根本を司る力なのである。  『時空郷』はこの生命の根本を司る力を無限に生み出す土地であり、新たに生まれる存在は全て『時空郷』より生まれ、それぞれの世界へと散り、逆に何らかの理由で『存在の力』を失ってしまった存在は、自然と『時空郷』の世界に還り、そこで新たに『存在の力』を得て、再び次元世界へと旅立って行く。  簡潔に言えば、『時空郷』の世界とは、全ての『存在』が生まれ、やがて還って、新たなる『存在』として生まれ変わる世界ということになり、それは巨大な生命の循環システムとも言え、そのような世界に侵入する事がほぼ不可能に近いのは当たり前な話とも言えよう。  ちなみに、その巨大な生命の循環を管理しているのも、当然『始まりの神』と呼ばれる『存在』だけである。  ならば、『始まりの神』とは一体如何なる『存在』なのか?  『始まりの神』は、自分が何時・何処でどのように生まれたのか自分自身でも知らない。  ただ、自我を持ちはじめた時には自分という存在だけがそこに在ったことだけを理解していた。  自分以外の何ものも存在していないことを知った時、『始まりの神』は自分が『虚無』より生まれ出た特殊な存在であることを知ったのである。
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