子犬とパワーショベル

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 土曜日、仕事は休み。買い物ついでに解体工事現場を見にいってみた。土曜日でも工事は行なわれていた。  激しい音を響かせながら、パワーショベルはアパートの外壁を破壊していた。クチバシのような先端が外壁をはさみ、ねじ切っていく。それはまるで、巨鳥が餌をついばむ――というより、むさぼり喰っているよう見えた。そういえば、瓦礫が少ないような気もする。もっとも、トラックで随時運び出されていくからだろうけど。  アスカちゃんの四匹の小犬はコロコロと太ってかわいかった。母が欲しがるのもわかる気がしたが、すでに引き取り手は決まっているらしい。血統書付きであるから、そうなるのも仕方がない。  ついにアパートの解体工事が終了した。あの古ぼけて陰気で汚いアパートは、本当にそこに存在していたのかと思うほど影も形もない。  会社からの帰宅途中、立ち止まってしみじみと眺めた。  夕日にたたずむパワーショベル。一仕事を終えて、というより、アパートを喰いつくして満足しているかのように見えた。
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