彼の足跡

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 男達が衝撃を受けた数日後、カウカセスの作った国境の広さと効果を、馬数十頭に乗った旅商の一行が教えてくれた。  その一行は、毎年一度珍しい商品を積んで入村し、慣例として彼等の長が長老宅を訪れる。  笑顔で挨拶を済ませた長が、開口一番に告げたのだ。 「あの岩はどうしたのかね? 以前はなかったが」  岩と告げられ、長老は怪訝な表情を浮かべた。旅商が入村したのは長老宅の正面から。林に遮られて、裏にある岩は見えないはずだった。  そんな様子には構わず、長は興奮した様子で話を続けた。 「いやあ、危ない所だったのだよ。クレイグ峡谷は用心して避けていたのだけれど、他の道が落石や土砂崩れで通れなくてね。仕方無しに通ったのさ」  長老は益々困惑した。話に出て来た峡谷は、村から馬に乗って、10日はかかる場所だった。 「案の定盗賊の罠でね、全速力で逃げたのだが、ほら我々は荷物があるだろう? 追い付かれそうでね、もう荷を捨てるしか無いと思ったよ。それが、あの岩! あの岩を通ったらさ、真っ白い光がこんな風に降り注いで!」  長は腕を上げては下げ、ゆらゆらと揺らして、興奮に顔を真っ赤にしながら喋り続けた。 「最後尾が捕まりそうだったのだけど、盗賊が弾き飛ばされたんだよ! どおんってさ! 白い光にだよ? 光なのに壁なんだよ! 奴らどうしても岩から入って来れないんだ!」  盗賊が弾き飛ばされる真似を繰り返し、長は大いに笑った。対する長老は、呆気にとられて口を開けたまま、その様子を見聞きしていた。 「岩の横に回っても無理なのさ! いやあ、わし達は大笑いさせてもらったよ。それからだけど、全く危うい場所が無くなっているんだよ。それに、馬が5頭も並んでも余裕がある道なんて、あんな立派な道には遭った事がないよ!」  長の話は、驚いた長老の様子に気付くまで続いた。
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