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グラディスは、身体を鍛えようとした。
仕事が終わると、疲れた身体で山を駆け上がり、彼女の思い付く全てで筋肉をつけようと訓練したのだ。
しかし、女性である彼女に、固い筋肉はなかなか付かなかった。しかも母親からの遺伝子は、しなやかで細い身体を作り出す。
それに逆らうように、彼女は毎日、何年も身体を鍛え続けた。
彼女が14になった頃には、ある程度の筋肉が付いたものの、傭兵である客に、到底敵うものではなかった。
グラディスは、身体を鍛える事を体力作りに変え、戦う技術を覚えようとする。
その為に、傭兵の宿舎に出張する厳しい仕事を選び、身体が空けば訓練を眺め、夜にそれを復習する日々が始まった。
そして18になり、グラディスの我慢は限界を迎える。
店でついた客は、傭兵になりたての青年で、極めて乱暴に彼女を扱ったのだ。
「淫売のくせに!」
理不尽な暴力を振るい、彼女を犯し、そしてまた暴力を振るう。
殴られ蹴られ、死を感じる恐怖の中から、巨大な怒りが彼女に充ちた。
そしてついに、理性を越えた憎悪に押され、グラディスは本能で動く。
彼女の顔を押さえ付ける手を噛むと、引いた男の腕を追って上半身を起こし、男の喉元に手刀を打ち込む。
「げっ! げぼっ! こっ…ごほっ!」
呻く男から身を離すと、傭兵の荷物から大柄のナイフを取り出し、彼女を捕まえようとした男の手首を、振り向きざまに切断した。
「ぎゃああ! 血っ! 俺の…ぐあ!」
手首が皮一枚で繋がった状態に、動揺する男。
その周りを、踊るように切り付けながら、最後の一振りで、後頭部の付け根にナイフを突き立てた。
男は声もなく床に倒れ、彼女は息も切らさずにその死体を眺めていた。
素早さ故に返り血を受けず、全裸で無表情に見下ろす彼女は、単なる傍観者のようだ。
片手のナイフさえ無ければ。
しばらく光景を眺めたグラディスは、何かを決意すると暗い笑みを浮かべ、服をまとい、遺体の荷物を持って、窓から逃走した。
そこから、ゴートスの足跡が始まる。
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