彼の足跡

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「国が、欲しいとは思いませんか?」  長老はあまりのことに、何の反応もできなかった。  村民50名余り。特に産業がある訳でもなく、少ない収穫で細々と暮らす者ばかりだ。 「この地に、大国を作って頂きたいのですよ」 「はっ!」  長老は笑おうとしたが、上手くはいかなかった。 「貴方は、その……なんですか……国を作れる、と?」  呆れ、カウカセスが正気であるかと疑う老人に、彼はゆっくりと頷き、立ち上がった。 「これから国境を作りに参ります。そうですね……最初はこの近くに作りますから、ご一緒に行きませんか?」  気の触れた青年と思い、断るよりもその奇行を皆に見せようと、長老は村中の者を集め、自宅裏の林を抜けた地に、カウカセスと向かった。  男達は、苛立ちをあらわに長老の後ろに立ち、女達はうっとりとした表情で、カウカセスを見詰める。  そんな人々を背に、彼は草原立ち止まった。 「リア・ノイヴァ・コム・ゼン・ソウィウ……」  草原に向けて、カウカセスは唄いだした。  その場にいる全員は、術語を知らない。否、その世代に生きる人間全て、と言い直した方が良いかもしれないが。  そのため彼の術語は、歌の様に聞こえたのだ。 「カスサ・ケウゥク・ノ・ポウィテ」  皆が聞き惚れていると、カウカセスは左右に手を振った。その刹那、轟音と共に土が盛り上がり、巨大な岩が現れた。それはカウカセスの両側に鎮座し、動きを止める。 「これが、一つ目です」  彼は振り返り、村民に笑顔を振り撒いた。 「明日からは、もっと離れたところに作ります。よろしいですよね?」  それは、村民に畏敬と恐怖を植え付ける行いだった。
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