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彼はそれから毎日、日が昇ると出掛けて行き、地平線に日が落ちる頃に小屋へ戻った。
「こんな石がなんだって言うんだよ」
日も落ちたある夜、村長宅の裏近くにできた岩の傍らに、数人の男が集まり、岩を睨みつけていた。
「国境作るったて、日に歩いて帰って来れる距離で、どんな広さがあるっていうんだい」
彼等の妻や娘、恋人達は、カウカセスの元に足しげく通い、殆どが家に帰って来なかった。
しかし、地から岩を生み出すという奇人に、誰ひとり文句を言うことが出来ないでいる。
「よおし、明日も出掛けるあいつを、皆でつけてみちゃあどうだい?」
「お、面白そうだな。こんな小さな国境かい! ってさ、皆で笑い者にしてやろうぜ」
『皆』が行く事を暗黙の約束として、それぞれは家に帰り、朝を待った。
明け方に、男達はカウカセスの小屋から少し離れた木立にいた。
その表情には意地悪い笑顔が浮かび、斜め掛けした布には昼飯、腰には水が入った革袋と、遊び気分に溢れている。
観客が待つ中、程なくしてカウカセスは小屋から出てきた。
無言の合図が男達の中を巡り、カウカセスの動きを追う準備に、身体に力が入った。
ところが。
「!?」
全員が息を飲んだ。
出て来たばかりのカウカセスに、一本の光が天から降りて来ると、一瞬で彼の姿が消えたのだ。
しばらくは身動きも出来なかった彼等は、恐る恐ると足を踏み出し、小屋に近付いた。
小屋の周りにカウカセスの姿は無く、そうっと開けた扉の向こうには、全裸で雑魚寝をする女達しかいなかった。
自分の妻や恋人がその中にいても、男達は騒ぐ事も怒る事もなかった。驚き混乱した彼等には、そんな事に構う余裕は無かったのだ。
『カウカセスは、人間ではない』
皆がそれを認識し、無言のまま、とぼとぼと家路に着いた。
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