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オレンジ色の光が前に見えてきた。
おそらく、先にある十字路の街灯だろう。
事故を防ぐためなのか、先の十字路は、電信柱にある白い街灯ではなく、大きなオレンジ色の街灯によって照らされているのだ。
美雪の心の中に、どこかほっとした安堵感が生まれた。あの街灯にたどり着けば、家はもうすぐだ。
真っ暗な中のオレンジ色の街灯は、まるで舞台のスポットライトのように見えた。
降りしきる雪がオレンジ色の暖かそうな光に照らされ、本当に舞台の紙吹雪のように見える。街灯の影から誰かがぴょこっと出てきそうな、そしてオレンジライトの下、ステップを踏んで踊り出しそうな……。
そう、農夫だ。いつだったか映画で見た、アメリカ風の農夫。
麦藁帽をかぶり、鍬を肩にかけて持ち、つなぎを着た農夫がオレンジ街灯の下で踊っている。
タタン、タタン、タタン……。
農夫は一定のリズムで、しかし時々不規則にタタタン、タン、タン、タン、タタタン、とステップを踏む。
その姿はどちらかといえば不恰好で、決して美しくはない。美雪はピエロを見たことがないが、「ピエロのよう」という表現が相応しいような気がする。
しかし、農夫は構わずステップを踏んで踊っている。
タタン、タタン、タタン……。
農夫の周りに雪が舞う。暗いステージに、オレンジ色のスポットライト。照らし出されるのは踊る農夫。演出は降りしきる雪の紙吹雪。
次から次へと雪が降ってくるが、農夫は寒そうな顔を見せず、涼しげな表情でステップを踏んでいる。麦藁帽子に雪は積もらない。それはそうだ。これは幻なのだから。
「こんな寒い中、何してるの?」
美雪は農夫に尋ねた。農夫は美雪のほうに目もくれず、ひたすらステップを踏みながら答える。
「決まってらぁ。見れば分かる、踊ってるんでさぁ」
農夫はまるでステッキか何かのように、鍬をひょいと反対側の肩へ移動させた。
「どうして踊ってるの?」
「生きてるからでさぁ」
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