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「え? わ、私……?」
純は俺に突然話しかけられたことに少し戸惑っているようだった。
「純以外に誰がいるんだよー……、な? 新入生?」
すると純と一緒にいた先輩が俺を一瞬で新入生と判断して、確認をとってくる。
素早いな……。
「は、はい……」
話しかけたのは自分なのだが心のどこかで緊張していたのだろう。
ビビって返事が少し曖昧になってしまう。
男のくせに、しっかりしろよって?
……うるせぇ、まだ始まったばかりだ。
「ほら純! こんな律儀な後輩を前にいつまでにやにやしている!」
「にやにやっ!?」
先輩に突っ込まれた純は慌てる。
「別ににやにやなんかしてないよ~!」
「じゃーこの顔は何だー!」
俺から見ても何故かあからさまににやついている純の顔を先輩が弄くる。
「きゃ~!」
「……」
この先輩方は見ず知らずの後輩を前にして自分たちがとっている行動を恥ずかしく思わないのだろうか。
俺なら絶対無理だ。
……。
俺は顔がにやにやしている純と、彼女の頬っぺたを掴む先輩の姿を見て考える。
……多分ここは二人のじゃれあいが終わるまで、水を差さないのが正解だ。
俺の本能がそう告げている。
下手に邪魔をして『空気読めよ新入生』と思われたら一貫の終わりだ。
……まあ女子同士の行動には関わりたくないってのが本音だ。
なので俺は二人に口出しすることなく――純の、そこら辺に散らばっている教科書を拾い上げる。
今なら二人はじゃれあいに気をとられている。
今なら教科書を拾っても『積極性』を俺から受けとることはまずないだろう。
逆に好感度が上がることもあり得る。
俺は手際よく教科書を拾いながらそう考える。
――そして純の教科書が全て俺の腕に収まったとき、二人のじゃれあいも幕を閉じていた。
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