12534人が本棚に入れています
本棚に追加
/687ページ
やがて、ジロちゃんとその対戦相手は、どちらからともなく互いの距離を詰めた。
かと思うとまた歩みを止め、慎重に間合いを図る様にじっと睨み合う。…
顰めた実況の声も、心なし緊張を帯びている。
怖くて見てられないかも。
そう思った次の瞬間。
目にも止まらない早業で、ジロちゃんの両手が相手の襟をつかんだかと思ったら。
あっという間に相手の足の間にうち足を掛け、ジロちゃんは身体を前に屈めて。
次の刹那には、長身の相手選手の身体は宙に綺麗な弧を描くみたいに踊らされ、そして。
バシン、と派手な音を立て、フロアになぎ倒されていた。
瞬間湧き上がった歓声と、賞賛の指笛の音。
エキサイトして何かを駕なる実況の声にかぶさるように、ジロちゃんの涼しい笑顔がアップで映し出された。
胸の前で十字を切り、それから声援に応えてギャラリーに向けて手を振った。
なんて…
なんてあざやかなんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!