-ささやき-(1)

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「えと……う、うん」 「場所さ、焼肉屋? 食べ放題の。あそこ知ってる?」 「うん。前に行ったことあるから…わかるよ」 「そうか。オレよく知ら…」 「バイバーイ、早稲生クーン」 「…おぅ」 クラスメイトらしき女子に手を振られて、スイくんも軽く振り返した。 彼にとって、手を振るっていう行為は、 そのくらい気軽なものなんだろうな、 やっぱり…。 ただ立っているだけでも、スイくんに声をかける子は多い。 千奈が言うように、彼はひどく無愛想で笑顔も少ないのだが、決して冷たい印象はない。 むしろそんな、人になびかない態度に、安心感を覚える人が多いようだ。 ついでに言うと彼は、旧家? 名家? とにかくけっこう大きい家の跡取りさんで、いろんな意味で私なんかとはポジションの違う人だ。 「悪いな。で、さ」 「う、うん」 「場所よくわからないんだ。おしえてくれないか?」 「えっと…う、うん」 いまだに、しゃべる時は緊張する。 他の男子にはそんなことないんだけど…。 「ちょ、ちょっと待ってね」 私は慌ててカバンからノートとシャーペンを出し、地図を書きはじめた。 でも…。
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