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「えと……う、うん」
「場所さ、焼肉屋? 食べ放題の。あそこ知ってる?」
「うん。前に行ったことあるから…わかるよ」
「そうか。オレよく知ら…」
「バイバーイ、早稲生クーン」
「…おぅ」
クラスメイトらしき女子に手を振られて、スイくんも軽く振り返した。
彼にとって、手を振るっていう行為は、
そのくらい気軽なものなんだろうな、
やっぱり…。
ただ立っているだけでも、スイくんに声をかける子は多い。
千奈が言うように、彼はひどく無愛想で笑顔も少ないのだが、決して冷たい印象はない。
むしろそんな、人になびかない態度に、安心感を覚える人が多いようだ。
ついでに言うと彼は、旧家? 名家? とにかくけっこう大きい家の跡取りさんで、いろんな意味で私なんかとはポジションの違う人だ。
「悪いな。で、さ」
「う、うん」
「場所よくわからないんだ。おしえてくれないか?」
「えっと…う、うん」
いまだに、しゃべる時は緊張する。
他の男子にはそんなことないんだけど…。
「ちょ、ちょっと待ってね」
私は慌ててカバンからノートとシャーペンを出し、地図を書きはじめた。
でも…。
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