-ささやき-(1)

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(うわ~っ、下手だぁー!) たぶん今、顔が真っ赤だ。 昔から美術とか手先を使うことは苦手だったけど、 今日ほど悔やんだことはない。 しかも緊張で手がうまく動かない。 書き間違えて、慌てて消しゴムを出すと、それも手からこぼれ落ちた。 スイくんが、さっと拾い上げる。 「ほら」 「あ、あ、ありがと…」 するとスイくんが、めずらしく笑みをこぼす。 (うわああああーーーーーー!!) 叫びたい衝動をおさえるので精いっぱいだ。 よりによってイチゴの消しゴムがぁぁぁ! 「こ、こ、子どもっぽくてゴメン!」 もう消えたい。 消え去りたい。 「いや。かわいい消しゴムだな、と思ってさ」 もう頭の中がパニックになりながら、必死に地図を書きあげた。 「これ! こ、これ! 地図!」 なぜカタコトで、しかも叫んでいるのか…。 でもそれしか言葉が出てこない。 「サンキュ…。ん………………」 スイくんは、地図というにはおこがましいような落書きを、困った顔でにらんでいる。 「ゴメンナサイ! 美術2でゴメンナサイ!」 「いや…まあ…謝らなくても…。でも、たしか中学の時、抽象画はうまいって先生にほめられてたよな…」 「あれ抽象画じゃなくて! スケッチだったんですゴメンナサイ!」 私は地図をひったくって叫んだ。 「ダメ、これ、なかったことに! おわびに、ちゃんと案内するからぁー!」
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