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今美月の目の前で気まずそうに微笑む男は、自力で動けなくなっていた彼女を救ったその人なのだ。長らく薄らいでいた記憶だったが、その瞬間のことだけが鮮明になる。
「あなた……あの時、の」
おぞましい記憶と安堵が入り交じり、美月の喉が激しく渇いた。
──彼だ。彼から、桜の香りがする──
「今日で、あんたを助けたのは二度目……妙な縁だな。俺は八神魁斗。あんたは?」
「……逢坂……美月」
ぱちんと、胸の中で何かが弾けたのがわかった。
それは、季節の訪れを桜の香りで知るような──昂揚と、衝動。
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