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私が明日には着くとカナタに伝えると、カナタはわかったと言って自分の部屋に戻っていきました。
パタンと小さな音を立てて扉を閉めて、扉のガラスからほのかに赤い光が見えます。
しかしそれもすぐに消えて、廊下は真っ暗になってしまいました。
カナタがいなくなったので、私の存在を照らすものは月だけになり、辺りは静けさを増したように静寂が訪れます。
外からは鈴の音のような虫の鳴き声が聞こえていますが、美しく、凛としたその音色は反って森の静けさを表しているような気さえするほど繊細なものです。
時々吹く強い風に、私は腰まで伸ばしてある銀色の髪を押さえ、散々にならないようにしました。
その風の音ですらこの森の一部で、虫の音色と重なり、壮大で、静かなオーケストラを思わせる幻想的な演奏だと、私は思いました。
きっと、後二週間もしたら、この森は毎日盛大にオーケストラをしていることでしょう。
しかし私は、明日にはこの森から抜け出せていなくてはいけません。
私は不定期に、レフル中にある小さな村から大きな町を点々と繰り返してきました。
そんな生活を私は、小学校を卒業してすぐに、約六年も続けています。
私の名前は国中に広がり、私が来るのを今かと待っている人たちがたくさんいるはず。
だから、決してここで立ち止まる訳にはいかないのです。
それに、私はこの暮らしが結構好きなのでして。
そんなことを考えていると、なんだか眠くなってきました。
深夜に起きているので、それは当然のこと。
私は明日に着くであろう村でしばらく暮らします。
そのための準備、主に挨拶を済ませるためには、元気な顔でするのが絶対条件。
目の下に隈なんて作っていいはずがありません。
そう思い私はテラスから室内に戻り、テラスのすぐ近くにあるベッドに体を預けて、静かな眠りに入るのでした。
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