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陽は陰っていて、木々の間から涼しい風が吹き込んでくる。辺りはしんと静まり返っていて、ときおり飛び立つ虫の羽音だけが妙に忙しげに聞こえた。
(ここは本当に現世なのだろうか)
そのとき階段の上から、砂利を踏み散らすような音が聞こえた。祐輔は息を切らして階段を駆け上る。すると赤い社の石段に、狐が一匹ちょこんと腰掛けていた。
「うどん。びっくりした?」
「何だあ。日真理だったのか」
日真理は、狐の面を外すと指で髪を梳く。
「ドキドキした方が来たかいあるでしょ」
「本気で日真理が迷子になったと思ったよ」
「うどんって騙されやすいのね」
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