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  「だたし、一つだけ条件がある」 「条件?」 「うん。私の顔を他の人に見せないって約束して欲しい」 「顔を見せないって、どうするんだよ」 「それは七夕のお楽しみ。今日はもう帰ろう。雨降ってくるよ」  空を覆う雲は厚みを増し、遠い山脈の彼方には稲光が走っていた。 「今度会うのは日曜の夕方七時。絶対に来いよ」 「わかった」  どうしてだろう。祐輔には、日真理が前より素直になったように思えた。  家に着くとすぐ、大粒の雨が家々の屋根を叩き始める。暗闇のなかで飛沫が上がる。  祐輔は窓をぴっちりと閉めると、流来にダブルデートができることと、日真理が顔を見せないことを知らせた。 『なんか妙な約束だな。まあいいけれど』  流来はどうにも腑に落ちない様子。  祐輔は、七時半に神社の大銀杏で落ち合うことを約束すると携帯を切る。  その日の雨は深夜まで降り続いた。 .
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