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   ◇◇◇  七夕飾りは、町はずれの神社の前の参道に飾られる。  祐輔は買い物帰りに参道に立ち寄った。  ここの七夕飾りはちょっと変わっている。大きな街の七夕飾りとは違って古風なのだ。太くて長い孟宗竹に、麻布を染めた吹き流しと真っ赤な提灯。商店街のコマーシャルなどまるでない。  参道に入っただけで、竹と笹の匂いが鼻の奥まで香ってくる。幼い頃恐々入ったお化け屋敷の匂いとそっくりだ。  祐輔は大銀杏(いちょう)の前で立ち止まる。  樹齢三百年を越える銀杏の木。昔から山の神が宿ると言われ大切にされてきた神木だ。幹は太く、大人が十人で囲んでも抱えきれないだろう。ところどころに、(こぶ)やうろがあり時の深みが感じられる。  祐輔は家に帰ると、藍色の浴衣に着替えた。  糊の利いた袖に腕を通し、胸の前できとちりと生地を重ねる。  帯を締めると背中に金魚柄の団扇を挟んだ。 「準備完了だな」  祐輔は鏡に向かって呟いた。 .
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