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日真理の正体を知ること。
流来にとってはそれが目的かも知れない。
でも祐輔は、日真理の謎を解いてはいけないと思った。
東の方から群青色の夕闇が押し寄せる。家の軒に付けられた小さな七夕飾りが、初夏の夜風に気持ち良さそうに揺れていた。
祐輔は、玄関の戸をピシャリを閉めると夕闇の町に向かって歩き出す。
家々の軒を越え、祭り囃子の笛と太鼓が聞こえてくる。
『風流』という言葉で片付けてしまえばそれだけだが、祐輔には、それが日真理と自分を繋ぐ音色のように感じられた。
潮風が運んでくるのだろうか。遠くから波の音も聞こえてくる。
国道を東に向かうと、空一杯に星の光が満ちあふれた。
自転車では見過ごしてしまいそうな自然の息遣いが、ゆっくり歩く祐輔の五感に飛び込んでくる。
校門に着いたとき、既に日真理は煉瓦に背中を寄せていた。
「よ。牛乳うどん」
「よ。ゴーヤバーガー」
日真理は悪戯っぽい笑みを浮かべた。髪を後ろに束ね、頭の上に何かを乗せている。
「何だ? それ」
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