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  「面……。人を化かすのにはこれが一番だから」  日真理は頭の上に乗っている面を外すと、祐輔の前に突き出して見せた。  白い狐。日真理と同じように頬の部分だけ珊瑚色に染められている。  日真理は洗い晒しの浴衣姿。三色の朝顔柄が彼女の初々しさを際立たせていた。 「綺麗だ。あ、狐じゃなくて日真理のこと」  「少しは口、上手くなったのね」 「そんなんじゃない。本心からそう思ってる」  日真理は狐を頭の上に乗せると祐輔に寄り添って歩く。 「神社の大銀杏で待ち合わせなんだ。参道から離れてるから、すぐに見つけられると思うよ」  そう言って日真理を見ると、日真理も祐輔の瞳を見つめ返した。  ドキッとするような瞳。この中に何が隠されているのだろう。  祐輔はそこに不完全さと痛みを感じ取った。神社に向かう道は野晒しで、正面を青黒い山が覆っている。 「なあ日真理」 「どうした? ゴーヤって呼ばないの?」 .
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