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  「デートなのに、ゴーヤとか言ってたら変だろ?」 「そう? 私は気にしないよ」 「でもさ。今日はお互いに名前で呼びたい気がする」 「やっぱり牛乳うどんね。ありのままでいいのに。友達からよく見られたいだけなんじゃないの?」  確かに日真理のいうことは当たっているかもしれない。でも、心のどこかで『これは日真理にとって大切な時間』とも思う。  七夕祭の醸し出す不思議なムードが、祐輔の感受性を敏感にしたのだろう。  やがて辺りの風景は、草原から賑やかな祭の風景に変わる。たくさんの夜店が参道の両側に立ち並んでいる。浴衣を着た子ども連れの夫婦や、中学生の女の子たち。参道の海側には、神社に奉納される巻き藁飾りが大地から生え出たように立っていた。 「ほら。あれを神社まで運ぶんだ。言い伝えだと、あの巻き藁に右手のくすり指を突っ込んで願い事をすると叶うって」 「え。それ本当?」  女豹のような日真理の顔が、純粋な少女の顔に変わる。 「願い事……してくるか?」 .
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