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日真理は小さく頷くと、巻き藁に向かって歩き始めた。
巻き藁の周囲には人だかりができている。二人は人垣をかき分け、やっと巻き藁にたどり着いた。
「日真理はどんな願いごとするの」
そう尋ねた途端、日真理の右手が祐輔の頬に飛んでくる。
「バカ。誰かに話したら願い事叶わなくなっちゃうだろ」
「可愛いと思っていたのに何だよ」
「うるさい。黙ってて」
日真理は、真剣な顔をして巻き藁にくすり指を突っ込むと目を瞑った。
顔の高さに上げられた日真理の手首から、肩口に向かって浴衣の袖がはらりと落ちる。
彼女の二の腕が、祭の明かりに照らされて艶やかに浮かんだ。右腕にはまだ包帯が巻かれている。
祐輔も、日真理の指の隣に自分のくすり指を差し込んだ。
目を瞑ると、日真理の願い事が聴こえるのではないか。そう思ったけれど、彼女の言葉は聞き分けられなかった。
(どうか日真理と結ばれますように……って、何願ってるんだ俺)
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