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「きゃ。やったわね」
日真理も頭から水をかぶり、真剣に怒り出す。弾ける飛沫の中で、空はどこまでも高く、雲はどこまでも深く二人を見下ろしている。
ひとしきり水をかけ合った後、祐輔は、ふとその手を止めた。日真理の体が震えている。
「おい日真理」
祐輔は心配して日真理に近寄った。日真理は俯いたまま唇を震わせている。そして彼女の体を温めようと両手を肩に伸ばした。その瞬間、日真理が両手で掬った水を祐輔の顔にぶっかけてきた。髪の毛からズボンまでぐっしょり。それを見て日真理が笑っている。
「何騙されてんの。単純だなぁ」
祐輔は、有頂天になっている日真理の目を見て言う。
「バカやろう。俺本気で心配したんだぞ」
そして一度止めた両腕をそのまま伸ばし、日真理の肩を抱き寄せた。日真理の背中に手を回して抱きしめると、体のぬくもりが伝わってくる。流来が『幽霊だ』と言ったことは嘘に違いない。そう祐輔は思った。
二人は滝壺から上がると、平べったい岩の上に寝ころんで空を見上げた。
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