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「きれいな雲だ」
祐輔がぼそりとつぶやく。
すると日真理も、「本当にきれい」と言い、うっすらと笑みを浮かべて雲を眺めた。
「さっきはごめん。私のこと心配してくれたのに」
日真理は、申し訳なさそうな顔を祐輔に向けて謝った。日真理らしくない態度だ。清らかな水が彼女の心を解かしたのだろうか。そう祐輔は思う。
「いいよ。俺は日真理が元気でいてくれるのが一番だから」
大きな積雲が太陽を通り過ぎたとき、日真理が立ち上がる。服はすっかり乾いていた。
「さあ。次は狐鳴神社よ」
「はい。ゴーヤお嬢様」
「そんなに私ってゴーヤなの」
「そうだなあ。最近は甘みが出てバナナに似てきたぞ」
「バナナ? バナナよりはゴーヤの方がましね。私のことバナナって呼んだら首絞めるわよ」
「わかったよ。バナナ」
「こら。お前」
日真理は祐輔を追いかけて走る。細い山道を抜けると温泉街の煙が遠くに見えた。
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