004

11/17
前へ
/275ページ
次へ
  「きれいな雲だ」  祐輔がぼそりとつぶやく。  すると日真理も、「本当にきれい」と言い、うっすらと笑みを浮かべて雲を眺めた。 「さっきはごめん。私のこと心配してくれたのに」  日真理は、申し訳なさそうな顔を祐輔に向けて謝った。日真理らしくない態度だ。清らかな水が彼女の心を解かしたのだろうか。そう祐輔は思う。 「いいよ。俺は日真理が元気でいてくれるのが一番だから」  大きな積雲が太陽を通り過ぎたとき、日真理が立ち上がる。服はすっかり乾いていた。 「さあ。次は狐鳴神社よ」 「はい。ゴーヤお嬢様」 「そんなに私ってゴーヤなの」 「そうだなあ。最近は甘みが出てバナナに似てきたぞ」 「バナナ? バナナよりはゴーヤの方がましね。私のことバナナって呼んだら首絞めるわよ」 「わかったよ。バナナ」 「こら。お前」  日真理は祐輔を追いかけて走る。細い山道を抜けると温泉街の煙が遠くに見えた。 .
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6532人が本棚に入れています
本棚に追加