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  「俺、今日は(さわ)と帰るから」  流来は、短く告げて帰っていった。 (あ。忘れ物)  祐輔は、数学の問題集を取りに教室に戻る。  校門付近で一斉に傘の花が開いた。 ( くそ。降ってきやがった)  祐輔は、問題集を仕舞うと鞄から折りたたみ傘を取り出す。窓の外の景色は、一面飛沫で白く染まっていた。鞄を肩に掛けようとしたとき、ふいに背後から声をかけられる。腹の底に響く声。 「なあ。にいちゃんよ」  祐輔の手足は凍り付き、心臓が早鐘のように鼓動し始めた。 「おめぇ、古沢祐輔か」  祐輔はゆっくりと振り向いた。恐くて声が出せない。背の高い男。 「古沢祐輔かって()いてんだ。ちゃんと答えねぇか」  凄みのある声。祐輔は小さく頷く。足が震え出した。 「日真理(ひまり)は、何でお前ぇみたいな、ちんけなやろうに会いたがっているんだろなぁ」 (日真理って名前なんだ) .
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