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祐輔ははっとして、日真理の胸から掌をはなした。
「やっぱだめだ。こんなこと」
きっと日真理も、こういうことに慣れていない。祐輔はそう思った。
「恥ずかしいけど、私は悪いことじゃないと思う」
日真理はそう言うと再び祐輔の手を取る。
「なあ日真理。お風呂……入って来ようよ。何だか汗かいちゃった」
祐輔はそう言うとそっと日真理の手を押しやる。日真理は一瞬切ない表情を見せる。
「そうね。私もいっぱい汗かいた」
緊張していた日真理の顔が緩み、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
二人は、タオルと着替えを持って一階に降りた。フロントの奥に、露天風呂に続く廊下が延びている。途中の扉を開けると、屋外に屋根のついた小さな廊下が続いていた。
夏が始まったばかりだというのに、周囲の木立からはヒグラシの悲しげな鳴き声が聞こえる。木立の間からオレンジ色の光が斜めに差し込んだ。西の山に日が落ちたのだろう。残照が周囲の岩や木の根を茜色に染めている。
「部屋の鍵、俺が持っててもいい? たぶん俺の方が早く出るからさ」
「先に出たらこの辺で待っててよ」
日真理が視線を向けた先に、小さな木のテーブルとベンチがあった。
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