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「勝手に部屋に帰ったら、承知しないから」
日真理はそう言うと、『女湯』と書かれた赤いのれんをくぐって行った。祐輔も『男湯』ののれんをくぐり、脱衣場に入る。すべてを脱ぎ捨てると、フェイスタオルを持って露天風呂への木戸を開けた。
宿の規模から考えると、ずいぶん大きい。岩で作られた露天風呂は、入り組んだ形をしている。風呂の縁が宿を流れる清流に面していて、その奥に闇に覆われ始めた山並みが迫っていた。
祐輔はどっぷりとお湯に浸かると、「うーあー。いい湯だ」と言って手足を伸ばした。滑らかな湯が、祐輔の全身の筋肉を揉みほぐしてくれる。岩の間からは源泉だろうか。とろとろと蒸気の立つお湯が湯船に流れ落ちていた。
そのとき露天風呂に、別の客が入ってきた。顔は湯煙ではっきり見えない。しかし、露天風呂の入り口をよく見て祐輔は「あれ?」っと首を傾げる。しかし、その違和感がどこから来るものなのか祐輔にはわからなかった。
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