001

6/23
前へ
/275ページ
次へ
  「名前……は……?」  祐輔はやっとのことで口を開く。 「俺は、久我(くが) (たける)。なあ、にいちゃん。ついて来い」  祐輔の下の袋が縮み上がった。そして、昨日の夜の出来事を恨めしく思った。 (日真理……あの少女のせい。あいつが突然俺のこと言い出したから) 「早くしろ」  祐輔は、久我に脅されながら北棟に連れて行かれた。  三階の美術室。久我が扉を開ける。いつの間に雨が上がったのだろう。オレンジ色の夕陽が、斜めに差し込んでいた。その目映い光を浴びて一人の少女が立っている。 「猛。ありがとう」  芯のある声。右腕に包帯が巻かれている。 「約束は果たしたからょ」  久我は不敵な笑みを浮かべ、美術室を出て行った。祐輔は教室の入り口で立ち尽くす。少女は、祐輔に視線を向けた。 .
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6532人が本棚に入れています
本棚に追加