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肺を握られているかのように息苦しかった。
これだけもある家々のどれひとつにも、自分のためにあたたかく開かれる扉はない。
当たり前の、とうの昔からわかりきっていたはずのことだったが、たった今発見したかのような鮮やかな驚きを感じていた。
驚きの裏側には痛みと哀しみがあった。
あったが、同時にかすかな愛しさも感じていた。
名も知らず、顔も知らない夥しい数の他人が、それぞれに与えられた時間を抱えて暮らしている。その街並みから、目に見えず、耳に聞こえない声を聞いたと思ったからだ。
苦痛の叫びも、懊悩の呻きも、喜びの声も。後悔ゆえの啜り泣く声も、罵声も、愚痴も、慈しみの囁きも、自問する呟きも、すべてが混ざり合って、誰の何とも区別のつけようがない膨大な大音量の声となって膨れあがり、今いる場所までも鼓膜の奥までも圧迫するように充ち満ちて、今は静かに月光に照らされている街と大気とを、覆い尽くしていると感じていた。
銀河を仰ぎ見ているような、眩暈のするような動揺のなかにいた。
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