銀河の聲

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 彼女は歩き続けていた。  駅はもうだいぶ遠くなっただろう。前後にいた他の人影もそれぞれの家に帰り着いたようで、気付いた時にはいなくなっていた。時計は見ていなかったが、20分は歩いたはずだ。彼女もそろそろ家に辿り着く頃だろうか。  それにしても毎日こんなに遅い時間にこの道を歩いて帰っているのか。  彼女の背中に特徴的な、背負っているケースが気になった。黒くて大きなケースだ。重そうに見えるがこれほど歩いて平気なのだろうか。  もし楽器のケースだとしたら、彼女は音楽大学か何かに通っているのだろうか。それとも、個人的な習い事として通っている音楽教室などからの帰りなのか。学校や地域の同好会の帰りで、それでこんな時間になるのかもしれない。  彼女が帰る家はどうだろう。  若い女性が一人暮らしをするような小洒落たマンションだろうか。いや、一人暮らしならば何もわざわざこんな遠くに家を借りたりはしないだろう。  だとすれば、庭付きの一軒家で、遅い帰りの彼女を迎える家族が待っているのかもしれない。 どんな家に住んでいるのだろう。  疲れたようにも見えない足取りで歩く彼女の家が、見てみたくなった。  彼女が足を止めた。  どきりと一際高く心臓が鳴った。  振り向くのか、と身構えて見ていると、彼女の前に人の列があることに気づいた。  その先の歩道の端には細い看板のようなものが立っていた。  バス停だった。  彼女が立ち止まったのは、バス待ちの行列の最後尾に並ぶためだったのだ。  唐突な終止符に、しばらくの間、半ば呆然としていると、後ろから大きなエンジン音が迫ってきて、横合いに滑り込むように停まった。  粛々と並んでいた人々の列が、無言で長い乗物の脇腹に飲み込まれていった。彼女も飲まれていった。  彼女は最後まで振り向くことがなかった。
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