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キッチンで、何かをしている“雅”を、無意識に眺めていたら、不意に“雅”が顔を上げて。
私には視線を寄越さないまま、廊下をぱたぱたっ、と。
可愛く刺繍の入った、ベトナム風のスリッパを鳴らして、廊下に飛び出したんだ。
誰か、来たの?
玄関、開いた?
お兄ちゃん帰って来た?
私は気になって、“雅”の出たドアから、玄関を覗き込んだ。
誰も、いない、じゃない?
そう、怪訝に思った瞬間に。
ドアが開いたんだ。
雅ちゃんただいま、と。
ドアが開く前に待機していた“雅”に驚くことなく。
黒い髪をギリギリの長さで結んだ、男。
だれ?
その男に“雅”は、今までおとなしやかだったのが嘘のように、嬉しそうに腕を伸ばして、抱きついた。
靴を脱ぎながら、“雅”を抱き留めた彼が、その額にキスを落とす。
続けて唇にも触れるのを、見てはいけない気がして、私はドギマギと慌てて、ドアを、閉めた。
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