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「…鷹野さん、そんなの駄目ですよ」
僅かに、苦笑のような叱責のような。
小さなクリスタルの瓶を持った“雅”が、私の斜向かいに腰を下ろした。
パチンと小さな折り畳みナイフを手に、自分の髪から花を抜き取る。
「…大丈夫。由紀さんは、宇田川さんの奥様ですから」
指先で、不思議なくらい滑らかに、花の茎が切り戻され、クリスタルの水の中に、一本ずつ。
視線が合わないのは、私が逸らしている訳ではなく“雅”が刃先を見つめているせい。
私は、その滑らかなナイフの動きを見つつ、言われた意味を、考えた。
「……なに…よ。…馬鹿にしてるの?」
私は、お兄ちゃんを好きで。
一言も会話をしなかったって言うのに、この子は。
それが兄妹愛なんかじゃないことに、気がついたって言うの?
私が、あんたや、不意に聞こえた女の名前に、嫉妬してる事まで?
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