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「………え?」
“雅”は顔を上げて、私を見た。
「…どうして?」
どうして、馬鹿にしてるなんて、思うの?と、“雅”は僅かに首を傾けた。
指先でつまんだ茎の細さと、ナイフの薄さとが、妙に静かで。“雅”のびっくりしたような顔は、作られたものではない、と。
僅かな後悔と、そわそわとした落ち着きの無さとが、私の苛立ちを増幅させた。
「だっ…て………!」
「深雪ちゃん、フィナンシェ食べる?」
不意に目の前に出された焼き菓子に、私はびっくりして顔を上げた。
“タカノ”の目が、私の知っている“タカノ”とは違って、穏やかに、でも少しの憐れみを浮かべて。
まっすぐ、私を見ていた。
「凱司さん帰って来たら、すぐごはんですよ?」
「大丈夫」
何が大丈夫なんだか“タカノ”は私の前に、ふっくらとしたお菓子を置くと、手を付けていないプリンを、下げた。
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