クルミと砂糖と干し葡萄

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大きな砂山は、砂山以外の物に進化する事はなかった。 例えば、お城とかに。 満潮の時刻が近付くにつれて、たくさんトンネルを掘った砂山は、徐々に波に浸食されて、崩れがちになった。 「…そろそろ帰るか?それとも花火でも買ってくるか?」 砂だらけの私に、お兄ちゃんは大きなタオルを掛けてくれた。 潮風は、少し冷たい気がする。風邪を引く、と掛けてくれたタオルは、お兄ちゃんの家の匂いがして、暖かい。 「…今日…帰らなきゃ駄目?」 「…………………」 私は。 お兄ちゃんが好きだ。 「夜には“タカノ”も帰って来るんでしょう?」 “雅”を可哀想だと思う気持ちもある。 でも。 だけど。 やっぱり砂だらけの、お兄ちゃんの。 新しく入った薄墨の蛇に、そっと手を掛けた。 .
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