五刻「灰雛と小さなオルゴール」

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なぜだかその日、私は病院に居た。 なぜだろう? わからない。 昨日の出来事は記憶に焼き付いて剥がれず、焼けば焼くほど焦げ付いて苛立ちを強くする。 私は病気にはならないようだし、別に誰かをあの世に連れて行こうとも思わない。 でもなぜか病院の受付前に居た。ただ惹かれるようにその場所に居た。 病院のイメージ。中まで白くて無機質。そんな想像に違わず、命を、人生を扱う場所にも関わらずこの病院もまたなにか無機質さを醸し出している。 ああ、だからか。いまの私にはこの無機質がとてつもなく心地好いのだ。命のやり取りが為され、人間の生への純粋な欲望に包まれたこの純粋な空間が気持ち悪いほどに心地いいのだ。 院内は朝から患者がかなり多く、人でごった返している。慌ただしく看護師が動き、患者は様々な表情を見せながら流れていく。
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