五刻「灰雛と小さなオルゴール」

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その後再び別室に両親は呼び出され、彼女の退院は数日後に決まったらしい。 そのときの彼女の兄の喜びようときたらなかった。飛び上がったかと思うと、妹の手を掴み、うさぎのごとく跳ね回った。 彼女の細々しい腕はちぎれんばかりに揺れていた。 小さな兄妹が笑顔で退院を喜び合う。 …………なんて残酷な光景だろう。 誰か一人でも気付いただろうか。この美しい光景に、主人公がまったく笑っていないことに。その明るい瞳の奥の哀しみに……。 そしてまた偶然に彼女と視線がぶつかった。やっぱり確信的に彼女は気づいている。
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