五刻「灰雛と小さなオルゴール」

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そう笑みを浮かべて言い切った表情は彼女の名前、儚そのものだ。 でも、それはできない願い。叶えられない願い。 私は確かに人を殺すことが出来た。皮肉なことに死神と知られているらしい。でもそれは……私に怒りの感情が芽生えたときだけ。 この子に怒りの強い感情を覚えることなんてできないだろうし、この子がどう憎まれようとしてもこの性格では無理がある。 私がこの世界から排除したいのは違う存在……。この子とは似つきもしない。 だからできない。叶えられない願い。 その私の微妙な表情の変化を見てか、彼女が口を開く。 「私ね……すごく重い病気らしいの……。それでもう治らないって。みんな何も言わないけど、わかるから。最初ここに来てからも……いまも、良くなってる? って聞くとみんな同じ表情をするから。でも、みんなが諦めても……私はこの命を諦めたくないんだ……。だって、私のお兄ちゃんすっごく単純で……バカみたいに信じやすくて……ふふ……元気になるって信じてくれてるんだもん」
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