一刻「灰雛は産声をあげる」

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メガネは……途中で踏み潰した。 虫の血で汚れたメガネをつけ続けるなんて、誠に大変失礼極まりないだろうけど、吐き気がしてしまうので、丁重に砕かれていただいた。 見えなくなっても、ぼやけるくらいの近視なら、歩くことも、家にたどり着くこともできる。 メガネを外して歩いていると、不思議とすれ違う学生の雄らしき人間に顔をまじまじ見られるのが非常に気に障ったが、別段どうでもいい気分だった。用があるのなら話し掛ければいいのに、見てヒソヒソ話す意味が理解できない。 私の家は普通だ。飾りは特にない。庭が少しついているぶんいい家なのかもしれない。あ、あと階段が三段ついている。豪邸ではないから普通の部類のはずだ。 普通の家に異様な少女が帰ってくる、首の片側を赤黒く染めて、キッときつく閉じられた口許が微笑んでいる異様な少女。 その長い髪は風に凪がれ夕陽に紅く輝いていた。黒髪が合わさり、それは赤黒く艶めいた。
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