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主なる主人を迎えた家は静まり返っていた。
冷たい水の湯舟に浸かる。長い髪はまとめられずそのまま水面に浮かび上がっている。
お風呂の小窓から差し込む夏日の斜陽は容赦なく小空間を照らし出す。その紅さは、水面をも染めた気がした。
滲む色は水面に沈みながら渦を巻き、静止する私を透かせて下に溜まる。溜まった滲みは、また炎のように上に向かい沸き立ち揺れてうごめく。
夏の日差しに恨みのように焦げ付いた体熱は、暗く閉ざされた雪原のように冷めて、沈む斜陽は女の嫉妬のように赤黒く煮えたぎる色をさらに濃く、底なく深くしていきこの空間の白壁に侵食していく。
「……」
私は膝を折り体を反って、水面下に私を沈める。
人……いえ、違う。蛆が爆ぜた。否、裂け切れた。
たぶん、自意識過剰でなければ、…………私のせい。
水中から顔を上げる。
水面下から出る瞬間に瞼を閉じ、再び見開いた世界は真っ暗だった。
途端始まる走馬灯……。
『見たくない……』
途端に浮かぶたくさんの笑顔……。
『やめて……』
途端に流れる明るい幸せそうな数々の風景……。友人が、恋人が、家族が、幸せな風景……。
同時に頭がかち割れるような強烈な頭痛に襲われている。だがそんなことは……どうでもいいっ!
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