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「鞠紅売命(まりあひめ)?なにかあの子のことはわかったかい?」
「……」
「うん……?」
「その名前、嫌ぁ……」
風に柔らかく揺れる白髪の、まるでドールがそのまま動いているかのような小さな美少女が駄々をこねている。
ゴシック的な服に、横しまの白と黒のニーソックスが非常によく似合う。
生まれた名を呼んでもこれだから、いつも愛称のようなもので呼んでいる。むかし、俺が一度呼んだその愛称を彼女はとても気に入っているらしい。
「まりー、あの子のことはわかっているかい?」
不機嫌なドールの美しい顔は満足げににっこりと微笑みに変わった。
そして上機嫌でどこからともなく現れた書類を渡される。
いつもまりーはこうだった。それをいつも通りに氷ノ尊(ひょうの みこと)は受け取り目を通す。
「灰奈、16歳。身長154.4センチ、体重38キロ、バ…? まりー……こういう情報まで調べてくれといつも言っていないだろう……?」
「だめ……だった……?」
彼女の声はか細い、だが説得力となににも負けぬ芯の強さがその声には溢れている。それでは、いつもこちらから折れるしかなかった。確かに、まりーが必要のない情報を尊に渡したことなど
1度もないのだから。
「まったく……」
困り顔な笑顔を見せると、彼女は安心したようにまた微笑んだ。
書類に目を戻す。
「……」
「灰奈、現在は両親との3人家族、姉が居たが、8年前に死亡。姉、白奈(ハクナ)は死亡時16歳。死因は首を強く圧迫したことによる窒息死、自殺・遺書はなし。両親はキャリアとキャリアウーマン、子供の面倒見は非常によく、灰奈が中学を卒業するまでは母親も仕事を控え、高校入学と同時に仕事へ本格的へ復帰。出張が多いため、家にほぼ帰らない両親のため、灰奈にお手伝いさんを勧めるも強く断られたために断念。ほぼすべてのことを現在は娘に任せきり……宗教は仏教、信心深いほうではない。
……普通だな」
そう、普通。一般家庭より裕福であるし、姉が死んだという特殊な事情や両親がほぼ居ないという面はある。それを加味したとしても、至って普通の家庭だった。
だが、まりーの情報が有無を言わせず最善なのは、2枚目以降があるからだ。
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