115人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
濡れた身体にまとわり付いた水滴を拭き取り、鏡の前に立つ。
私はいつも鏡に姿を映し出される“コイツ”を強く睨み付ける。私は下等な蛆蟲を嫌悪する! その存在を否定する!なのに!!
「コイツはのうのうと生きているっっ!!」
歯がギリリッと音を立てて鳴る。
嗚呼……そうだ、髪を乾かさなければならない。
「……」
いつも髪は綺麗にしていた、長い髪も正直気に入っている、それは女としての生物本能なのかなんなのか……別段嫌な気分ではなかった。
「……」
それが、いまの私にはとても邪魔だった。
「そうだ、切ろう……」
すぐさま洗面所にあった画用紙を切るような小さな鋏が音をあげる。
――ジョキ……ジョキ……バサッ。ジョキ……バサッ――
何年と伸ばした髪は、いとも容易く地面に散らばり堕ちてゆく。
どれだけ大切にしようが、どれだけ大切にされようが、所詮こうしてある日突然、誰かの勝手1つで堕とされるの……。
「いい気味ね……?」
鏡の前の少女に私は微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!